羽蟲に導かれて、朧姫と猫になった虎太郎は本城地下の最下層にある女牢を訪れた。
戌嫁によって産み落とされた犬達が暮らす巣穴。最奥の牢屋に群れの長がいる。赫狼はボテ腹の戌嫁に身を寄せていた。
「あぁ。十年ぶりね。虎太郎。愛しい私の坊や……。生きて会えるなんて……」
牝犬の妊娠期間は約二ヵ月。赫狼の仔犬を身籠もった戌嫁を実母とは認めたくなかった。しかし、甲賀忍の血伝忍法〈扶翼術〉を使っている。
「大丈夫よ。鬼達は気付いていないわ。私が操れるのは翼を持つ生物。鳥獣しか操れないと思い込んでいるから……。でも、私の忍術は羽の生えた昆虫にも有効よ。昔、教えたことがあるでしょう?」
「本当に母さん……なんだね……」
なんと声をかければいいか分からなかった。
甲原沙世子は十年前の任務で死んだとばかり思っていた。感動の再会だというのに、母親が生きていて嬉しいという感情は湧かない。
「ガルルルゥッ……!」
赫狼は警告の唸り声をあげた。
「ごめんなさい。赫狼様は私がほかの男と触れ合うのはお許しにならないの……。たとえ虎太郎でも嫌だと言っているわ」
「赫狼……! お前……!!」
「協力してもらう代わりに、私の一生を捧げると誓ったわ。私から言いだしたの。だから、赫狼様を責めたりはしないで……!」
「そんな……だって……母さん……!」
三毛猫状態の虎太郎は朧姫に抱かれていた。朧姫にとっても戌嫁は、信頼している乳母だった。
「虎太郎さん。今は……」
「分かってる。朧姫……。分かってるんだ……」
母親の皐鬼那は産まれてきた第一子が女児だったことに失望し、愛情はほとんど注いでくれなかった。血の繋がった母親よりも、乳母に寄せる信頼のほうが大きい。
「虎太郎の匂いを嗅いで……忘れていた記憶が戻ってきているわ。御庭番の忍衆だった甲原沙世子……。けれど、もう私は人には戻れないわ。戻ろうとも思えなくなった。虎太郎と姫様はまだ人の道を歩めるわ」
戌嫁の悲痛な想いを聞いて、朧姫は表情を曇らせる。
虎太郎と朧姫の生まれは異なる。虎太郎は甲原家の人間として生まれた。甲原龍太郎と甲原沙世子の間に産まれた息子。しかし、朧姫は違う。
「私の父母は妻鹿帰の鬼ですわ……。人喰い鬼の娘です」
「大丈夫。貴方は私の言いつけ通り、人間を食べていないのでしょう。身体は鬼でも心は完全な人間よ。そもそも妻鹿貴之國を支配した鬼は、人間の血がとても濃いわ」
「それは……私の母上が……元々は人間の伊月白雪だったから……」
「いいえ。夜叉丸の母親も元々は人間だったはずよ」
「私の祖母も人間……?」
「十年前に私達は妻鹿貴家の家系図を調べた。戦国時代の混乱期、国盗りを成功させた鬼母が妻鹿貴の始まり。元々の字は〈女餓鬼〉だったというわ」
牢獄の床に唾液で漢字を記す。
「女に飢えた鬼……。それが妻鹿貴の始祖なのですね」
「いいえ、違うわ」
「え?」
「飢えた女の鬼。新月の夜に夜叉丸が引き籠もる奥座敷の御堂は、〈鬼母堂〉と呼ばれていたわ。十年前に御庭番を裏切った伊月白雪はそこで何かを知り、皐鬼那という恐ろしい鬼に変貌してしまった」
戌嫁は十年前に起きた凄惨な出来事を語ってくれた。
任務の功労で御庭番の頭領が決まる。徳川将軍は忍衆を競わせて優秀な者を選ぼうとしたが、それは失策だった。
伊賀の忍達は伊月佐助を推薦した。春華の実父である。
甲賀の忍達は甲原龍太郎を推薦した。虎太郎の実父である。
御庭番の忍衆でもっとも実力があった伊月白雪は、くノ一という理由だけで候補から外された。裏切りの理由は分からない。しかし、強い不満を抱いていたという。
「そもそも伊月白雪は夫を嫌っていたわ。娘の前では良好な仲を演じていたようだけれど……」
恋愛結婚で結ばれる男女は稀だ。しかし、政略結婚だからといって夫婦仲が険悪になるとは限らない。実際、虎太郎の両親は夫婦円満だった。
「虎太郎。貴方は皐鬼那に取引を持ちかけられているのでしょう?」
戌嫁は妻鹿帰城に無数の蟲を放ち、虎太郎が皐鬼那に搾精されている現場を覗き見ていた。
「……そ……それは……。そうだよ。母さん」
「皐鬼那に朧姫を喰わせろと持ちかけられたのよね? よく聞きなさい。その取引に応じてはならないわ。皐鬼那は約束を守ると思う? あの女は夜叉丸に気に入られた楼嫁を排除し、自分が世継ぎを産みたいだけよ」
「分かってる。僕だって恩人の朧姫を差し出そうとは思わない」
虎太郎は本心を吐露した。春華を助けたい。でも、朧姫を生贄にするなんて選択はできなかった。
虎太郎に惚れている朧姫は嬉しい反面、母親の皐鬼那が自分を喰い殺したがっていると知り、表情が暗くなった。
「新月は三日後に迫っているわ。狼奈は楼嫁を連れて奥座敷に忍び込むつもりでいる。上手くいけば鬼母堂で夜叉丸を倒せるかもしれないわ。普段は皐鬼那が護衛につくけれど、今回は朧姫を喰うために離れざるを得ないから」
「教えてください。新月の夜、父上が奥座敷に籠もられるのは、鬼としての力を失うからですか?」
「ええ。そうよ。襲われぬように安全な鬼母堂に隠れるの。あれは夜叉丸の母親が作ったらしいわ。妊婦の子宮を模した黒鉄の揺り籠よ」
「狼奈と楼嫁さんは……父上をそこで……」
人喰いの鬼。しかし、父親には違いない。出来損ないと母親から蔑まれた朧姫が、今まで生きながらえたのは夜叉丸の親心だった。鬼なりに娘への愛情を注いでいた。
「夜叉丸のことは狼奈と楼嫁の二人に任せておきなさい。それよりも貴方達は皐鬼那を倒さなければならないわ。新月の夜でも鬼母は力を失わない。それどころか妖力が強まるわ。心しなさい。相手は御庭番の忍衆で歴代最強と謳われたくノ一だった女よ」
母からの警告に虎太郎は違和感を覚える。
(新月で夜叉丸の力は弱まる。それなのに、皐鬼那の力は強まる……? どうして? なんだか奇妙だ。筋が通ってない。そもそも母さんは女餓鬼を「飢えた女の鬼」だって言った。でも、普通なら朧姫が言ったように「女に飢えた鬼」じゃないのか?)
戌嫁は起死回生の妙案を授けてくれた。
夜叉丸を討ち滅ぼし、皐鬼那を封じる神算鬼謀の策略。やはり甲原沙世子は諜報に優れたくノ一だった。本来の彼女は犬畜生の仔を産み落とすような女ではない。
「母さん。僕は……」
「駄目よ。虎太郎。私のことは忘れなさい。父親のことも……。今さらどうにもならないわ。この牢獄にいる犬達は私が産んだ子供達。十年前に負けた私はもう戌嫁。甲原沙世子ではなくなってしまったわ」
戌嫁は膨れたボテ腹を撫でる。いくつもの噛み跡が残った垂れた乳房は、これまでの淫惨な生活を物語っていた。
「赫狼様は良い旦那様よ。大陸狼の血が入っているからかしら……。きっと優秀な仔犬を産めるわ。だから、そんな顔をしないで。今の私はそれなりに幸せよ」
赫狼との再婚に母親は満足していた。強がりではなく本音だった。
残っている人間らしさは、我が子への愛情だけ。元夫の甲原龍太郎の遺骨が、猟犬の玩具になっているのが証拠だ。
「もう帰りましょう。虎太郎さん。長く部屋を空けていたら、使用人に気付かれてしまいます」
息子の虎太郎は何も言えず、朧姫に抱かれて女牢を去った。
◆ ◆ ◆
月明かりが消えた新月の夜。楼嫁と狼奈は奥座敷に忍び込んだ。
御堂は荒れ果てた中庭にある。仏像を安置する観音堂に似せているが、祀っているのは人喰いの女餓鬼。夜叉丸の生母が建てたとされている。妖魔の加護により、外から扉を開けられるのは新月の夜だけだった。
「おかしくないかしら? なぜ新月の夜だけ外から扉が開くの? 普通は逆でしょ?」
忍び込もうとする楼嫁は疑問を口にする。
新月の夜に夜叉丸の妖力は弱まる。安全な場所に隠れるのは納得できる。しかし、そうであるなら新月の夜に扉が開く仕組みはおかしい。
「新月の夜だけは扉が開かない。それだったら分かるわ。前日から籠もってれば、無事に新月を乗り越えられるでしょ? でも、新月にだけ扉が開くっていうのなら、まったく安全じゃないわ」
楼嫁の指摘は正しい。狼奈も母親から聞かされた話は、何かが決定的に間違ってるような違和感を覚えた。
「鬼母堂には夜叉丸様の弱点が隠されているそうです。それを守っているのかもしれません。十年前に伊月白雪が……奥方の皐鬼那様は鬼母堂に忍び込んで、鬼母の真実を知ったという話です」
「鬼母の真実……。それさえ分かれば私も人に戻れるのかしら」
「はい。おそらくは……」
狼奈と楼嫁は鬼母堂に近付く。通常時は皐鬼那の鬼道で操られた屍人が厳重に警戒している。しかし、産気付いた皐鬼那は不在だ。代わりに狼奈が警備を任された。
「夜叉丸様の朝食に妖魔殺しの毒を盛っております。強大な鬼を殺しきることはできません。しかし、新月の夜なら昏倒はさせられるはずです」
母親から教わった通りに薬草を調合し、料理の人肉に擦り込ませた。体調を崩した夜叉丸は日没と同時に御堂に籠もった。それから半時ほど経つ。
「妖魔殺しで眠っているなら、こっちの手間が省けるわ。弱点なんか探らなくても鬼の首を刎ねてしまえばいい」
楼嫁は自分が本音で言っているのか分からなくなる。伊月春華であれば人喰い鬼の死を願う。しかし、一ヵ月半もの間、夜叉丸に愛されてしまった。
側室に娶られた楼嫁は、許婚だった青年よりも、妻鹿帰之國に棲む鬼を好いている。植え付けられた洗脳の記憶だとしても、もはや拭い取れそうになかった。
「行きましょう。狼奈……!」
小刀を握り締めた楼嫁は、鬼母堂の扉をゆっくり開いた。気付かれぬように足音を殺す。御堂の天井には新鮮な肉が吊られている。楼嫁は美味しそうな匂いで涎を垂らす。だが、すぐに意識を切り替える。
(集中しなきゃ……。ん? なにあれ? 正面に安置される屍体は干涸らびているわ。即身仏……? 頭に鬼角が生えてる……! 私やお母様と同じだわ。それに乳房の膨らみ……! 女だ……! 夜叉丸を産んだ鬼母の骸……?)
鬼母の御堂には死蝋化した鬼女の骸が祀られていた。
鬼母の胎内を模した祭壇の中心で夜叉丸が眠っていた。強力な力を誇る鬼は凄まじい妖気をまとっている。だが、今の夜叉丸からは微塵も妖気を感じられない。
(首を刎ねれば殺せる……! 今なら……!! 夜叉丸殿を殺せるわッ!!)
小刀を鞘から解き放った。楼嫁は夜叉丸に忍び寄る。弱点を探す必要などない。
この場で殺してしまえばいい。人間に戻る方法はあとでも探せる。
(千載一遇の好機……! 覚悟しなさいッ!!)
妖魔退治の経験は豊富だった。御庭番の忍衆は人に仇なす存在を狩っていた。古来より忍者は悪鬼を討ってきた。刀剣の技法ばかりに頼る剣豪の一族と違って、諜報と異能を駆使して、世の安寧に尽くしてきたのだ。
「夜叉丸……殿……! その首、私が貰うわ……!!」
小刀を振りかぶった瞬間、楼嫁の上衣が爆ぜた。
「え? なにこれ? ふひぃ!」
膨れ上がった乳房が震えている。豊胸剤を注入されて爆乳化した楼嫁の双乳。肉体改造の施術で使われたのは皐鬼那の氷鍼。鬼に堕ちても、元々は最強のくノ一。伊月白雪は氷結忍法を使いこなす天才忍者だった。
「おぉっ♥︎ おぉんっ……♥︎」
不様に膝を付いた楼嫁は、母乳を噴き出して喘ぐ。豊胸剤の氷鍼は消えておらず、楼嫁の乳房で行動を見張っていたのだ。
「楼嫁様……!? どうしたのです!?」
「らめぇええっ♥︎ あぁぁ♥︎ おぉぉっ♥︎ 身体が勝手に……♥︎ 母乳の噴出がとまらないぃぃぃっ……♥︎」
楼嫁は自らの両手で腫れ上がった乳房を扱き始める。搾乳行動を止められなかった。
間抜けな痴態をさらして母乳を撒き散らす。慌てた狼奈が駆け寄ろうとするが、狸寝入りをしていた夜叉丸は身体を起こした。
「――お座りだ。狼奈」
主君は猟犬に命じる。狼奈は妻鹿帰家で飼われている牝犬。運良く〈物の怪〉として産まれたが、本質は犬畜生だった。
「うぅぐっ……! しまっ……たぁ……!!」
戌嫁から産まれた狼奈を取り上げたのは夜叉丸だ。名付けの親もそうである。その命令には逆らえない。
「儂を謀っていたのは知っていたぞ。愚昧じゃな。しかし、嫌いではない。下剋上がなければ弛んでしまう。抗う女を屈服させてこそ、真の男じゃ」
夜叉丸は楼嫁の髪を乱暴に掴み上げた。白銀の長髪がぶちぶちと千切れた。
「あぁ♥︎ んぉあああっ♥︎ ちっ、違いますっ♥︎ 夜叉丸殿♥︎ これはぁ……♥︎」
乳を吹き撒きながら楼嫁は言い訳をする。
「どうした? 儂の首が欲しいのじゃろう? 新月の夜を狙ったのは当たりじゃ。しかし、儂とて警戒する。朝食に毒を盛られれば、気付くのは当然じゃ。貴様らは詰めが甘すぎる。小娘じゃのう」
楼嫁を放り投げて、土下座する狼奈に歩み寄る。
「夜叉丸様! 私の独断でございます!! ですから、どうか。母様や弟妹には寛大なご処置を……!! んぁあっ……!」
「慈悲をくれてやってもよいぞ。犬畜生の娘だと侮っておったわ。母親からくノ一の血を少しは受け継いでおるのじゃな。老い先短い〈物の怪〉で終わらせるのは惜しい」
夜叉丸に押し倒された狼奈は股を開かされた。
「夜叉丸様……?」
帯を引き抜き、着物を開けさせる。長身大柄な狼奈に対して、夜叉丸は初々しい少年の姿。しかし、力関係は見た目と真逆だった。
「鬼の子種をくれてやろう。貴様も鬼女となれ。儂の稚児を孕めば許してやる。くかかかかかっ! 畜生胎の味を確かめてみるとしよう。下手物ほど美味いというしな」
「おぉっ……ぐぅっ……! んんぁっ……!!」
破瓜の血が流れた。極太の鬼棒が狼奈の処女膜を破り捨てた。
「さすがは〈物の怪〉じゃ! 凄まじい膣圧よのぅ! 乙女のくせに押し返してきよるっ! くかかかかかっ! 名器じゃぞおっ! もっと早く抱いてやれば良かったのう!」
「おぉっ♥︎ おぉおぉぉっ……♥︎」
「どうせ死ぬからと綺麗事に流されたんじゃろ? 儂に泣きつけば寿命など、どうとでもなる。さあ、儂の子を孕んで鬼女になるがよい。忍の血が入っているのならば……。ほぉう? くかかかかかっ! やはりなっ! 染まりよった!!」
狼奈の体毛が煌びやかな白銀に色変わりする。半獣ゆえに侵食の速度は著しかった。そもそも強い者に屈服する性があったのだろう。
「おぉっ……♥︎ あぁっ……♥︎ あんっ♥︎」
正常位で抱かれる狼奈は、振り下ろされる男根を迎え入れるようになった。パンパンパンッ! 小気味よい打肉音が堂内に響き渡る。
「ひっ……♥︎ ひぐぅうっ……♥︎」
狼奈は巨躯を震わせる。鬼種が子宮を満たす。初めての淫悦に酔い痴れた。
「楼嫁にも仕置きが必要じゃのう。いい加減、孕んでもらわねば困るのう。皐鬼那が貴様を喰わせろと小煩いのだ。さて、世継ぎを産むのは楼嫁と狼奈、どちらかのう? 競わせてやろう」
御堂の扉が封じられる。奇しくも十年前に伊月白雪が鬼に堕ちた夜の再現となった。
鬼母の即身仏は、楼嫁と狼奈に呪いを授ける。若娘達に夢中な夜叉丸は外で起きている異変に気付けなかった。皐鬼那に宿っていた鬼母の呪いは消えかけていた。
◆ ◆ ◆
皐鬼那の胎に宿った鬼子は産声をあげなかった。
大方の者達が予想していたとおり、臨月まで大切に育てた胎児は夭逝した。朧姫を喰う計画は、虎太郎の裏切りで失敗してしまった。
「許さないっ! 絶対に許さないわっ……! 朧をどこに隠したの……!! 言いなさいッ! 言いなさいよッ!!」
半狂乱の皐鬼那は、半端に獣化が解けた虎太郎を締め上げる。
「うぐぅっ……にゃぁ……!!」
相手は最強だったくノ一。幼少期に甲賀の筆頭忍を暗殺した伊賀の鬼才。虎太郎と朧姫が手を組んでも戦える相手ではない。しかし、戌嫁は皐鬼那の弱点を二人に伝えた。
(あぁ……ぁ……。夜叉丸殿……。どうして、私を遠ざけるのですか……!! 誰よりも貴方様を愛しているのに……!!)
夜叉丸に抱く恋心は本物。だからこそ、楼嫁に嫉妬する。飢えた女の鬼は人肉を喰らう。欲深さに底はなく、凄まじい性欲を抱えている。
楼嫁を孕ませたかった夜叉丸は、皐鬼那の相手をしていなかった。
「あはっはははははは……。 いいわァ。朧から奪ってやる……! 終わった後に喰ってしまえば、夜叉丸殿にだってばれやしないわ……」
淫欲を抑えきれなくなった皐鬼那は、喰い殺す前に虎太郎を弄ぶことにした。悦望を鎮めなければ正気を保てない。猫耳と尻尾が生えた青年に跨がる。
「おぉっ♥︎ おぉっ♥︎ おぉぉぉおおっ……♥︎」
熟れた身体を持て余した奥方は不義密通する。流産で傷ついた子宮を癒すために、代用品の男根を膣穴で咥えた。
「こんな粗チンじゃ満足できないぃっ♥︎ もっとぉお! 大きく太くなりなさいっ!」
氷鍼を虎太郎の陰嚢に刺す。楼嫁の乳房を爆乳化させたものと同じ禁制の薬物が、男根を急成長させる。
一夜だけの肉体関係。どうせ喰ってしまうのだから、壊れてしまっても構わないのだ。夜叉丸に並ぶ巨根へと変貌させる。
「んぎゃぁっ! んに゛ゃうぁあああああああぁぁぁっ~~!!」
「あぁっ♥︎ ちょっとはましになったわ。私との取引を反故にして、朧を逃がした罪! しっかり贖ってもらうわ……!!」
皐鬼那は虎太郎の狙いに気付いていなかった。
戌嫁から教えられた作戦は、皐鬼那の無力化を前提としている。
忍術合戦で皐鬼那に勝てる者はいない。しかし、そもそも正面から戦うのは武士であって、忍者ではない。忍衆の戦い方は薄汚い。
(やっぱり気付いてないっ……! 僕なんか眼中にないから……警戒していないんだ……。母さんの言ったとおりにすれば……! 春華、朧姫……ごめん……! 僕は皐鬼那を……!! 伊月白雪を……!!)
射精の瞬間、虎太郎は自分を〈畜生〉だと認める。
人ではなく怪猫のミケ。夜叉丸が鬼道で真名を奪ったおかげで、本物の獣になれた。
「おぉおっ♥︎ おぉっ……♥︎ 夜叉丸殿ぉ♥︎」
皐鬼那は間男に興味がない。夜叉丸に抱かれていると妄想しながら絶頂している。明日には始末する性処理奴隷の目的を察せなかった。
(鬼になった女を人間に戻す条件……! そして、今の僕は猫だ。猫の繁殖能力は強い。たとえ流産した直後でも交尾排卵なら確実に……!!)
騎乗位で組み敷かれた三毛猫は鬼母の膣奥に精子を放つ。朧姫で童貞を卒業したとき、虎太郎は秘めていた想いに気付いてしまった。
初めての恋は何時だったのか。最初に春華と出会ったときではない。もっと昔だった。
手裏剣の練習場、的の丸太に張り付けられた似顔絵。そこに描かれていた美女は宿敵の伊賀忍。ある日、我慢できなくなった虎太郎は似顔絵の紙を盗んで厠に駆け込んだ。性の目覚め。初めての自慰で射精した似顔絵の美女。鬼母に堕ちても美しさは変わらない。
(僕の妄想が現実に……!)
甲賀の精を、伊賀の子壺に注ぐ。白銀色に染まっていた髪の一房が深紫に変色する。
「あんっ♥︎ あっんんうっ……♥︎ おぉっ……♥︎ お゛ぉぉっ♥︎ おぉぉんっ……♥︎」
鬼女を人間に戻す方法は存在する。淫交に集中する皐鬼那は、自分の肉体にかけられた呪いが剥がされたとは気付かなかった。
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