側室の楼嫁が迎えられてから、早くも一ヵ月が経とうとしていた。

妻鹿帰城は逢魔時を境にして妖怪の巣窟へと変貌する。夜更けに鬼達は人間を貪り食う。猟奇的な鬼達の日常は続いている。しかし、いくつかの変化は起きていた。

 朧姫は三毛猫を飼い始めた。

 父母の夜叉丸と皐鬼那は娘に期待は寄せておらず、普段から関心がなかった。愛玩物を抱きしめる一人娘は捨て置かれた。城内をうろつく小さな三毛猫を怪しむ者はいない。

 一方で楼嫁は世継ぎを産むため、夜叉丸の寝所に呼びつけられる淫奔な日々を送っていた。

 元々が妖魔退治を生業とするくノ一であろうと、鬼化してしまえば下僕も同然。一夜を乗り越える度、精神が妖気に侵食されていく。

「はぁっ……♥︎ はぁはぁ……♥︎ あっ……♥︎」

 血が染みた布団のうえに横たわり、楼嫁は荒々しく息を乱している。

 つい先ほどまで夜叉丸に抱かれていた。極太のオチンポで穿たれた陰裂には大穴がぽっかりと開いている。

「うぅっ……あぁ……♥︎」

 奥底にたっぷり吐き付けられた精液を指先で掻き出す。火照った子宮は愛液の濁流を垂れ流していた。

(新月の夜に狼奈と戌嫁に会ってから……なにも……掴めていない……。今夜は満月……。夜叉丸殿の力が強くなる日……♥︎ 私の卵子を探されてっ♥︎ 妖魔の精子が泳ぎ回っているのが分かっちゃうぅ……♥︎)

 気魂を下腹部に集めて、くノ一の房中術で排卵を封じる。

 左右の卵管を閉塞させて卵子を守り抜く。だが、いつ護りが突破されるか分からなかった。

 ――ぐぢゅぐぢゅぅぢゅぅっぶっ♥︎

 両手の指先で掻き出せるだけの精液を膣穴から取り除いた。

 伊月春華の人格は悲鳴をあげている。だが、鬼化した肉体はおぞましい欲望を煽り立てる。

「……ァ……アァ……!」

 鬼との子作りは体力を消耗する。

(食べないと……これを……このお肉を食べないと飢え死にしてしまうっ!)

 猛烈な空腹感に襲われた楼嫁は、用意された食事に手を付けてしまう。屍肉には小煩い蝿が集っている。

「ウゥ……ウゥゥ……」

 涎がこぼれる。尖った下歯の鋭牙で生肉の繊維を噛みちぎる。地下の厨房を覗いたとき、蝦蟇妖怪が食材を仕込んでいるところを見ていた。

「はぐっ! はぐぅっ! がっ! がぅっ! うぅぐぅっ……!! ごっくゅんっ……!!」

 用意された生贄に喰らいついた。

 新鮮で美味な血肉。罪悪感に苛まれながらも、生きていくためには必要な栄養だった。鬼の身体は人の血肉を求める。

「……うぅ……ううぅ……私……! 私は……!! ああぁあああああああああああああああぁぁぁ……!!」

 充満する死臭。眼前にあるのは、綺麗に捌かれた妊婦の死骸。妻鹿貴之國では人間が妖魔の家畜となっていた。領民や旅人が神隠しに遭う。楼嫁が口にしてしまった妊婦は、城下町から連れ攫われた新妻だった。

「うぅ……はぁはぁ……! 食べちゃった……! 食べてしまった!」

 白銀色に染められた髪を掻き毟る。頭皮が破けて血が噴き出した。鬼の再生力は著しく、すぐさま傷口は塞がった。

「――春華。伊月春華。僕だよ。僕が分かる?」

 放心していると、どこかで見た覚えのある三毛猫が入り込んでいた。

 畜生のくせに名前を呼ぶ。真名を呼ばれたことで、楼嫁の奥底に沈んでいた伊月春華の人格が浮かび上がる。瞳に光が戻った。

「……あぁ……あぁっ! 良かった……。ごめんなさい。本当にごめんなさい……!」

 涙を流して謝罪する。三毛猫に触れようとしたが、怯えた子猫は飛び退いた。

「……僕が誰だか分かるよね?」

「ええ。もちろん。だって……私達は……」

 春華は真っ赤に染まった自分の手を見る。妊婦の血肉を貪っていた口元は血で汚れていた。

「……!」

 取り繕うように股を閉じる。陰裂から垂れ流れている精液を隠した。

「――僕の名前を言える?」

 三毛猫は問う。目を泳がせた春華は唾を飲み込む。

「こたろう……。虎太郎よね? 私が忘れるはずないでしょ?」

 声が震えている。自分でも分かった。当たっている自信がなかった。

 鬼道術で洗脳された伊月春華は、楼嫁という鬼女に変貌した。心は人間であろうとしているが、変化は精神と記憶を蝕んだ。

「良かった。……でも、完全な真名は思い出せそうにない。そうなんだね?」

「ごめんなさい。忘れてしまったわ。虎太郎は私の真名を呼び起こしてくれたのに……」

「気にしないでくれ。僕は朧姫の飼い猫に化けて何とかやってる」

「狼奈から話は聞いたわ。ミケと呼ばれているそうね?」

「うん。この姿なら誰にも怪しまれない。でも、このままだと僕は人間に戻れなくなる。〈畜生〉と名付けられてしまった。春華も危険だ。今の君は……鬼の姿になってる」

「ええ……分かってる……。自分のことは私がよく分かってるわ。ごめんなさい。こんなはずじゃなかったの! でも、名前を奪われて……私は……。夜叉丸に屈してしまった。お母様のように……!!」

「皐鬼那は春華の母親……。伊賀忍の伊月白雪なんだね」

「ええ。私……虎太郎に謝らないといけないわ。あのね……天守閣に忍び込んだ夜……捕まった私は……」

 捕まってからの出来事を話そうとした。しかし、虎太郎に止められる。

「待った。その前に伝えたいことがあるんだ。さっき皐鬼那と夜叉丸の会話を盗み聞きしたんだ。春華が次の満月までに妊娠しなかったら、皐鬼那に喰わせると約束していた」

「え……? 私を……喰わせる……?」

「皐鬼那はもう完全な鬼だ。もう五度も流産してる。特別な肉を喰えば世継ぎを出産できると思い込んでいるんだ。春華の臓物を喰いたがっている」

「そんなっ……そんなことって……!」

「そろそろ夜叉丸が戻ってくる……。春華、ここにいたら駄目だ。僕は大丈夫だから一度、妻鹿貴之國から脱出して外に助けを……」

「それは無理。鬼の身体じゃ討伐対象よ。私は夜叉丸殿の弱点と人間に戻る方法を探るわ。……っ! この足音……! 夜叉丸殿が戻ってきたわ……。虎太郎は隠れてっ……!!」

「んに゛ゃ!?」

 春華は掛け布団を引っ張ってきて、その下に三毛猫を押し込んで隠した。

 驚いた虎太郎はつい猫の声で叫ぶ。動揺した春華は猫の尻尾を踏んづけてしまっていた。

「とっ、とりあえず、これで大丈夫だから……! 隙を見て部屋の外に逃げて……! 私を助けようとしちゃ駄目よ」

 慌てる春華の姿は、密会中の浮気相手を旦那から逃がそうとする女房のようだった。

 廊下の足音が近付いてくる。春華は人格を切り替える。夜叉丸の前では、従順な楼嫁になりきらなければならない。

「お帰りなさいませ……夜叉丸殿……♥︎」

 戻ってきた夜叉丸は、楼嫁の喰い残しに視線を移す。半端に食べられた妊婦の生贄を見て、やや不満げな顔で命じる。

「儂が貴様のために用意した御馳走だぞ。全て喰らえ。儂の鬼子を孕むには栄養が必要じゃ。楼嫁よ。貴様は妻鹿帰家の世継ぎを産む女じゃ。そうじゃろう?」

「は、はぁいっ……♥︎」

 夜叉丸の鬼道術〈(だつ)(めい)(しゅう)(めい)〉の重ね掛けは効果抜群だった。御庭番の忍衆であった記憶が薄れ、夜叉丸に娶られた側室の思い出が刷り込まれる。偽りの感情が本物の恋心に置き換わる。

「はぁ。はぁ……♥︎ はむぅっ……!! んがっ……がぅっ……!!」

 食台に横たわる妊婦の美味な肉を貪り喰らう。守るべきはずの民を捕食し、人外への道を転がり落ちる。飢えていた胃は満たされ、頭部から生えた鬼角は真っ赤に充血した。

「儂の子を孕むために喰らうのじゃ。まだまだ妖魔としては幼い。もっと身体を肥やさねばなあ? 味はどうじゃ?」

「アァ……ハグゥ……ァ……。おいしいぃ……♥︎」

 掛け布団の下に隠れた三毛猫は震えている。人間を食い散らかす美鬼に恐怖し、怯えていた。

 ◆ ◆ ◆

 

 栄養たっぷりの妊活料理を完食した楼嫁は、夜叉丸との子作りを再開する。

 満腹で出っ張った臍下を撫でられながら、極太長大な鬼棒が挿入される。膣襞を傷つける亀頭の突起が子宮に食い込む。

(おっ……♥︎ おっきぃいっ……♥︎ それなのにぃっ♥︎ すごく硬いっ……♥︎ 処女膜を破れなかった虎太郎の粗チンとは完全な別物♥︎ あぁ! やばいっ! やばいいぃっ♥︎ オマンコが本気で孕みたがってるッ♥︎ 鬼の赤ちゃんを欲しがってる……♥︎)

 背面座位で交わる楼嫁は、夜叉丸に背中を委ねる。ぢゅぶっ! ぢゅぶぅっ!! ぢゅっぷずゅにゅぅ~~!! 膣の最深部に到達してなお、大鬼の男根はその先に進んだ。根元まで咥えた膣口は、引き裂けんばかりにギチギチと拡がっている。

「はぁ……♥︎ んっ……♥︎」

 掛け布団の小さな膨らみから覗き見の視線を感じる。

(私を咎めてるの……? やめてよ! 仕方ないじゃないっ……! 気持ちよすぎるんだから……っ♥︎ 貴方だって……朧姫と愉しんでたくせにっ……!!)

 虎太郎と朧姫の関係は知っている。自分の初夜を奪えなかった青年が、異母妹に童貞を捧げるところを見せつけられていた。

(最初に私を裏切ったのは虎太郎じゃない……!!)

 醜悪でみっともない言い訳だった。よく分かっている。虎太郎は春華を助けるため、朧姫に取り入った。任務で下半身を使うのは忍者ならば当然。だが、妖魔の邪気に蝕まれた楼嫁の精神は、歪んだ八つ当たり的な感情を受け入れる。

「あっ♥︎ あんっ♥︎ おぉっ……♥︎ おぉっ……♥︎」

「よく馴染んでおるわ。くかっかかかかっ! 儂の好みに染め上げてやろう。この鍼が何か知っておるか?」

「はぁはぁ……? いいえ……? それは……?」

「皐鬼那の氷鍼じゃよ。娘にすら伝えておらぬ伊賀忍の秘技じゃったか。氷を研ぎ澄ませた鍼で肉体の経穴を刺激し、女でありながら無双の怪力を誇った。色々と応用ができるのじゃ」

「おぉ♥︎ おぉぐぅっ……♥︎」

 楼嫁の乳首に氷製の鍼が刺さる。禁制の魔薬を凍らせた鍼を乳房に押し入れる。鋭い痛みが双乳を駆け巡ったが、子宮で湧き起こる圧倒的な快楽が麻酔となった。

「儂は乳房の大きい女体が好みじゃ。楼嫁の乳房は小ぶりじゃからな。妻鹿貴の鬼族に嫁入りした娘が、貧相な体躯では不憫じゃろう? そぉれっ! 大きくなれっ! 乳腺に打ち込んだ氷鍼は、強力な豊胸剤を凍らせた秘薬じゃ。鬼の血に反応し、すぐさま乳房が膨れ上がるぞ」

「おぉおっ♥︎ お゛ぉおぉぉおぉおおおおおおおぉぉぉっ~~♥︎」

 楼嫁の貧乳が膨張を開始する。膣が引き締まり、挿入中の肉棒は内圧に対抗して力む。全身をブルブル震わせながら、壮絶なアクメを繰り返す。夜叉丸は氷針を打ち込んだ乳房を両手で揉む。

「育ち盛りじゃのうっ! くかっかかかかかっ! よいっ! よいぞっ!! 臨月腹の町娘を喰わせたのは正解じゃった! 母親よりも大きな乳房になってしまえいっ!」

 乳輪が茶色に広がり、乳房の媚肉が数倍に増加する。膨らみで張り破れた皮膚が再生し、夜叉丸の手で一揉みされると、さらに乳細胞が分裂して成長的破壊が生じる。

「んぐぅぅぅうっ~~~♥︎」

 仰け反った楼嫁は、たわわに実った爆乳を揺らす。細身の体躯にぶら下がった特大の双乳は、妖艶な実母を凌駕する巨峰に育った。

「淫猥の血は争えぬのう。皐鬼那を超えたようじゃ。喜べ、楼嫁よ。貴様は妻鹿貴之國で一番の巨乳となったぞ。くかっかかかかかかかかっ!!」

 上機嫌に大鬼は嗤う。褒美とばかりに、膣内に精液が注がれる。満ち満ちた子宮から下腹部の全体に淫熱が伝わっていった。

 卵管の閉塞が緩む。鬼の精子を阻んでいた女忍の房中術が解けかけている。このまま受け入れてしまってもいい。巨乳化させられた楼嫁の心は堕ちかけていた。

(――あぁ♥︎)

 掛け布団に隠れていた三毛猫が飛び出した。許婚だった少女が犯され、変わり果てるところを見たくなかったのだ。見つかったところで、単なる猫ではある。しかし、寝室に忍び込んだ猫を夜叉丸が怪しむかもしれない。

(見つかってしまう。あぁんっ♥︎ 虎太郎を……助けないと……!)

 折れかけていた忍びの心を奮い立たせる。

 御庭番の忍衆としての意地を示した。

(幻影忍法! 花吹雪ぃい……!!)

 夜叉丸の視界を遮る方法が伊月春華にはあった。血伝忍法は一人一つの先天的な異能術とされる。しかし、稀に二つの忍法を使える天才が現れる。

 伊賀流のくノ一、伊月春華が使う忍法は〈幻影〉と〈肉体再生〉の二つ。三毛猫を逃がすために発動したのは幻術のほうだ。掌印を結び、夜叉丸の視界を封じる花吹雪を撒き散らす。そのはずだった。

「あっ♥︎ あぁああっ♥︎ んぅうっ♥︎ ひっ♥︎ んぎぃひぃぃぃぃぃぃぃいいっ~~♥︎」

 幻影忍法で魅せる花吹雪は、術者の血液を触媒としていた。

 肉体再生が使える春華は、血液の消費を気にせず、幻影を連発できた。

「ほぉ〜? 素晴らしい余興ではないか! 母乳を吹き散らしよるとは! 妊婦を喰らった影響かのう」

「んひぃっ♥︎ ひひぃっ♥︎ あぁっ♥︎ あぁぁあ~~♥︎」

「良いぞ! 儂をもっと愉しませろ! 貴様を殺さず、女房に迎えたのは正解じゃった……! くかかか! くまかっかかかかかかっ!!」

 楼嫁は大きくなったばかりの爆乳から大量の母乳を噴き出した。舞い散った乳汁が花吹雪を演じる。

(ふひぃっ♥︎ おっぱいから溢れ出ちゃうぅっ♥︎ 止められないっ♥︎ 血じゃなくて、母乳が幻影忍法の触媒になるなんてぇえっ……♥︎)

 三毛猫の脱出を手助けできたものの、意図せず強力な母乳飛沫の幻影を魅せてしまった。

「おぉっ♥︎ おぉっ♥︎ おやめくださいっ♥︎ 夜叉丸殿ぉっ♥︎ そんなに強く揉まれたらぁっ♥︎ 破裂してしまいまするぅうっ♥︎」

「母乳で乳房が張って苦しいのであろう? 儂が搾り取ってやろうっ! 孕みもせぬうちから、乳汁を垂らしよって! その胎で早く儂の世継ぎを孕めッ!! 貴様はもう儂の嫁になったのだ!!」

「んぎぃっ……あぁ……♥︎ あぁあぁぁ……♥︎」

「業腹な子壺じゃなぁ? これでもまだ足りぬか? 貴様はもう完全な鬼になったじゃぞ。御庭番の忍衆に見つかれば処刑は免れぬ! 儂に仕える以外に、生き延びる術はないのだっ!!」

「おぉっ……♥︎ んおぉほぉっ♥︎ あぁんっ~~……♥︎」

「くかかかかか! 皐鬼那の餌にするにはもったいないのう。次の満月までに孕ませてやるぞ。妻鹿貴の世継ぎを、男の子を産めば貴様が正室じゃ」

 夜叉丸は楼嫁の耳元で囁いた。上下に激しく抽挿運動を繰り返す肉棒は、勢い激しく精液を噴射する。営みに夢中な城主と側室は、襖の隙間から情事を覗く奥方の存在に気付かなかった。

【第七章】皐鬼那の淫謀