の最新拡張パッケージ『漆黒のヴィランズ』が、世界最大級の悪堕ちジャンル作品だという話をさせてほしい。

本作は現在全世界で累計アカウント数2000万・推定アクティブプレイヤー125万人を数える、MMORPGの中でも世界最大級のタイトルである。と同時に本作は、ストーリーに数々の悪堕ちシチュエーションを織り込んできた立派な「悪堕ち」ジャンル作品であると筆者は考える。現行版のサービス開始から7年分、2010年リリースの旧版(サービス終了)から数えればそれ以上の物語が積み重なっているのである。

また昨年7月にリリースされた拡張パッケージ『漆黒のヴィランズ』ではこれまでに加えて新たな悪堕ち描写が2つも登場し(※筆者の私見)、メインストーリーの中核に据えられている。つまりストーリーの最初から最後まで、じっくりと悪堕ちを楽しむことができるのである。

本稿では悪堕ちジャンルファンへ向けて、FF14における悪堕ち描写の魅力を紹介する。ストーリーの核心には極力触れないようにしているが、それでもある程度のネタバレを含むのでご容赦頂きたい。

ちなみに先日のアップデートにおいて、本作の拡張パッケージ『蒼天のイシュガルド』までの内容が無料体験版に含まれるようになった。現在4本リリースされているパッケージのうち半分が、期間無制限かつ無料で遊べてしまうのである(一部の機能に制限あり)。気になった方はプレイしてみてはいかがだろうか。

(知り合いにプレイヤーが居るなら、同じサーバーでキャラクターを作ろう。きっと暖かく迎えてくれるはずだ。)

●世界観

前提として、本作の世界観を簡単に解説する。

・惑星ハイデリンの一地方「エオルゼア」を舞台に繰り広げられる、剣と魔法とメカと政治のファンタジー

・エオルゼアにはいくつかの「都市国家」が存在する

・「蛮神」(他のFFで言う所の召喚獣)と、それを崇める「蛮族」がおり、都市国家と対立している

・蛮族は蛮神を召喚する術を手に入れ、都市国家へ戦争を仕掛けている

・更にエオルゼアの外からは、エオルゼア全体の支配を目論む「ガレマール帝国」が攻め入ろうとしている

・主人公(プレイヤーキャラクター)はエオルゼアを旅する冒険者であり、ハイデリンのクリスタルの祝福を受けた「光の戦士」である

・冒険の中で、争いを引き起こすため暗躍する闇の使徒「アシエン」の存在を知り、仲間達と共にその謎に迫っていく

●テンパード

蛮神(本作における召喚獣)によって洗脳され、その信徒へと作り変えられたヒトを指す言葉。

蛮神は信徒の祈りによって召喚されるのだが、召喚後は自身の存在を維持するために、外部からエーテル(魔力)を供給されなければならない。しかしほとんどの蛮神は周囲のヒトの「魂を灼く」ことで、自身の忠実な信徒「テンパード」へと変える能力を備えている。つまり一度召喚されると蛮神自身がテンパード化によって信徒を増やし、蛮神を討伐しても信徒達が再び蛮神を召喚し、エーテルを供給してしまう。従ってこれらを両方とも物理的に討伐しない限り、蛮神は際限なく勢力を増し続けてしまうのである。正面から戦いを挑んでも逆にテンパード化されてしまう(挑む側からすれば、肩を並べていた仲間が突然こちらに剣を向けてくるのである!)ため、蛮神の討滅には通常多大な犠牲が伴う。

蛮神は最終的に周囲のエーテルを枯渇させて死の大地へと変えてしまうと言われている。総じて、本質的にヒトの営みとは相入れない存在であると言える。

旧版の頃から存在している設定。テンパード化は非可逆の変化であり、一度テンパードとなった者が元に戻る事は無い。そのためテンパード達は蛮神や、それらを信奉する蛮族と同様に討伐対象と見做される。例え生きて捕らえられ、都市国家へ連れ戻されたとしても、処刑される運命が待っているのである。それゆえか、とあるマップにはテンパードが寄り集まった集落までもが存在する。哀しいことに、扱いとしては一般モンスターの巣と大差ないのだが。

テンパード化しても外見は変化しない(一部例外あり)。設定自体は非常にえげつない一方で、ゲーム中における悪堕ちの描写としては比較的あっさり気味である。とは言え、FF14の世界観の根底を成す設定である事に変わりはない。メインクエストやジョブ「召喚士」のクエストをはじめ随所に登場するため、現在でも存在感を放っている。これなしに本作の悪堕ちを語ることはできないだろう。

●竜の力

エオルゼアには、ドラゴン族(竜族)の力をヒトの身に宿すことで超人的な力を振るう術が存在する。特にヒトと竜族の戦争が描かれる『蒼天のイシュガルド』(蒼天編)のストーリーにしばしば登場する。

竜そのものは善でも悪でもない。しかしながらエオルゼアの都市国家の一つ「イシュガルド」は竜族の一派と千年にも渡る戦争を続けており、竜やそれに与する人間は国家の敵と見做される。イシュガルドは国教に拠って成り立つ宗教国家でもあり、竜に与したり、戦いを拒んだ(と疑われる)者は「異端者」として扱われる。そして異端審問官による苛烈な異端狩りや、神明裁判が日常的に行われている。一方で千年にも渡る戦争は民衆を疲弊させ続けており、食い詰めた平民が異端者へ加わる事も珍しくない。……ここまで書けば、だいたいの雰囲気は伝わるだろうか。

異端者が竜の力を得る方法としてよく見られるのが、竜の血を飲むことで竜の肉体へと変身する「竜化」である。知性は人間のままでしばらくすれば元の姿に戻るが、繰り返すうちに竜人の姿から戻れなくなる……と説明されている。一部のフィールドには、竜の姿から戻れなくなった異端者の成れの果てと思しき魔物が徘徊している。

これらはゲームとしては単なる戦闘中の形態変化ギミックに過ぎない。しかしイシュガルドという舞台背景下では「異端者のスティグマ」という大きな意味合いを持ち、様々なクエストのストーリーフックとして大いに活用されている。例を挙げるなら、

・異端者に捕縛された際に竜の血を無理やり飲まされ、イシュガルドへ戻れなくなってしまった女騎士

・配偶者が竜の血を飲んでいたために子供にも竜の因子が受け継がれ、その結果自らの子を異端として狩る事となった異端審問官

・戦死したと思われていた夫は実は異端者に加わっており、竜の姿から戻れなくなった状態で妻と子の元へ帰ってきた

……などなど。彼/彼女らがどのような結末に至るのかは、ぜひ実際にプレイして確かめて頂きたい。

一方でイシュガルドには、竜の力を用いることを公に認められた者が1人存在する。かつて強大な邪竜から抉り取られた「眼」の力を引き出し、その力で以って竜を狩る「蒼の竜騎士」である。当代の「蒼の竜騎士」エスティニアンは邪竜に故郷を滅ぼされた青年であり、竜族への深い憎しみを胸に槍を振るっている。

ところで、FF14は過去のFF作品へのオマージュ要素に満ち溢れた作品である。……竜騎士。邪悪な者から奪った力。強い負の感情。何も起こらないはずがあろうか。いや、ない。

エスティニアンはプレイヤーが「槍術士」クラスであれば新生編のストーリーで初登場し、その後の蒼天編では本格的にメインクエストのストーリーに関わってくる。この辺りのストーリーを本来の順番で楽しみたい方には、イシュガルドに入る前に槍術士のレベリングをお勧めする(最初のクラスに選んでもいいが、本作は後から気軽にクラスチェンジできるシステムなので、やりたい時に好きなだけレベリングすればよい)。

●罪喰い

最新パッケージ『漆黒のヴィランズ』(漆黒編)の冒頭で、主人公は「光の力が氾濫し、夜の闇が失われた平行世界」へと旅立つ。この世界にはびこる白いモンスター達が「罪喰い」である。多種多様な外見をしているが、いずれも白い体色の、翼を持つ天使や獣のような姿をしている。その正体は「過剰な光属性の力によって、肉体と魂を歪められた生物」である。

他者を光属性の力で攻撃することで「罪喰い化」(=同族化)させる力を持つ。その最大の魅力は、罪喰いに襲われた被害者が罪喰い化する過程が緩急を付けつつ克明に描かれる点にある。

まず、罪喰いに襲われて致命傷を負った者。これらは体内のエーテル(魔力)が急激に光属性に偏るらしく、激しく悶え苦しみながら嘔吐する(吐瀉物も異常な「光」の色をしており、体内の惨状を伺い知る事ができる)。そのまま暫く苦しんだのち、白い翼のような構造が体表から生じる。そして翼は被害者の体を包み込むように広がり、丸まって繭のような形をとる。しばらくののち、被害者は完全に異形の魔物の姿と化し、繭を破って現れる……といった具合である。

また傷が致命傷でなかったとしても、罪喰い化から逃れることはできない。罪喰いによって傷を負った者の身体は、世界中に氾濫する光属性の力をその身に溜め込みはじめる。肌は少しずつ白く染まり、徐々に周囲の呼びかけに反応しなくなり……緩やかに、しかし確実に罪喰い化が進行するのである。

一部の罪喰いは、罪喰い化する前の記憶を断片的に受け継ぐらしく、故人を思わせる行動を取るものもしばしば見られる。

極め付けに、この世界の各地には罪喰いの群を率いる強大な「大罪喰い」と呼ばれる個体が居る。これらは討伐されると体内に蓄えられた莫大な光を放出する。そしてその光は最も近くに居た者の体に収束し、新たな大罪喰いへと変貌させてしまう。そのため、大罪喰いを討伐することは事実上不可能である。

総じて、ファンタジーの世界観に沿った悪趣味な生体兵器という趣である。また、どちらかと言えば珍しい「光属性の悪堕ち」である点も見逃せない。

これに対して、主人公は元の世界で光の力の加護を受けた「光の戦士」であり、大罪喰いの光にすら耐えることができる。ゆえにこの世界の誰もなし得なかった大罪喰いの討伐を果たし、世界に闇を取り戻す「闇の戦士」として戦う、というのが『漆黒編』のあらすじである……のだが。

物語の中盤において、それまで倒してきた大罪喰い達の光が実は霧散しておらず、主人公の体に蓄積されていたことが明かされる。その魂は既に罪喰いと見分けがつかない状態であり、主人公を守ってきた光の加護すらも徐々に綻びを見せ始める。このままでは主人公自身が大罪喰い(それも数体分の光を集めた最強最悪の)と化し、世界を滅ぼしかねない。

この状況にどのような形で決着が付くのかは、更に重大なネタバレになってしまうのでここでは語らない。ただ一点だけ申し添えておくと、SNSでは #罪喰い化 などのタグにおいて、罪喰い化したプレイヤーキャラクターを描くファンアートが多数投稿されている。もし興味が湧いたならご覧になってはいかがだろうか(ただネタバレも時折含まれるので、できれば『漆黒のヴィランズ』クリア後の閲覧をオススメする)。

●アシエン・エメトセルク

FF14のストーリーにおいて、たびたび主人公の前に立ちはだかる闇の勢力「アシエン」達の一人。すなわち主人公達の敵である。強大な魔道士であり、失われた太古の魔法に造詣が深い。

付け加えるならばNHKで特集された「全FF大投票」において、全てのFFキャラクターの中で6位に輝いた超人気キャラクターである。世界中で絶賛された『漆黒のヴィランズ』のシナリオの中心人物であることに鑑みても、なかなかの快挙ではないだろうか。

……最初に断っておくと、彼は狭い意味での悪堕ちをした訳ではない。彼の目的や行動原理は登場時から一貫している。最近@utakuochiがキュウべえを例に説明されたように、価値観が一般的なヒトと離れていること(また、それが明かされること)を悪堕ちと見なすのは難しい。しかしそれにも関わらず、筆者は彼の一挙一動に「悪堕ち」に近い魅力を感じずにはいられなかったのである。何故だろうか。FF14全体の核心的なネタバレになってしまうので具体的には語らないが、『漆黒編』で起こった事を整理すると

①本作がFFのナンバリングタイトルであることを背景に、光=主人公=正義、闇=敵=悪、という王道の世界観描写を8年以上にも渡って積み重ねた上で

②「罪喰いという光の力によって滅びようとする世界」「闇の戦士と呼び称えられる主人公」を描くことで上記の構図を揺るがし

③更にエメトセルクをはじめとするアシエン達の内面を極めて丁寧に描写することで、それまでの善悪観(①)を一旦リセットした上で

④改めて、作中世界における悪(ヴィラン)とは何かを再定義した

といった所だろうか。

ここで重要なのは、それまで主人公達が「善」側、アシエン達が「悪」側のアライメントで描写されていたのが、③で善悪の評価軸そのものがリセットされたことだろう。それによって両者は一旦、善でも悪でもないニュートラルな立ち位置へと置かれる。つまり主人公は相対的に(かつての)「悪」側へ、アシエン達は「善」側へ向かってアライメントが移動している。両者ともに行動原理が変わっていないにもかかわらず、悪堕ちイベントに近い何かを筆者が感じたのは、これが理由であろうと考えている。

●おわりに

いかがだっただろうか。FF14という素晴らしい作品の魅力を、少しでも伝えることができれば幸いである。

ここでは紹介しきれなかったが、本作には他にも「妖異化」「アシエンの憑依」「竜を愛した異端者」など、善悪の境界を越える描写が幾度も現れる。しかし筆者の拙い言葉ではこれ以上何を語っても、ネタバレを無用に掘り下げるだけになってしまう。もし本稿でFF14への興味が湧いたなら、フリートライアルでエオルゼアへの旅に出てみてはいかがだろうか。

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