まえがき

結論としては、日本語の「悪堕ち」に該当する概念が英語では発見できていないため、「悪堕ち」はそのままの意味で使う場合は Akuochi とヘボン式ローマ字で表記するようにしています。
ちなみに英語以外の言語では、例えば中国語では「恶堕」という表記をするなど、そのままの表現が用いられています。

なぜ日本語以外に悪堕ちの概念がないかというと、主に以下の3つの要因があります。

  1. 悪堕ちの概念が多岐に渡ること
  2. 悪堕ちジャンルの最先端を行くのが日本であること
  3. 悪堕ちの表現を許容されているのが日本を含めごく僅かな国々であること

特に、悪堕ちの概念が多岐に渡っていることで、悪堕ちを包括的に表現する単語が外国語にないというのが大きな理由です。これに関しては、お馴染みの以下の悪堕ち分類図を確認いただければと思います。

さて、悪堕ちに該当する英語はないと言いましたが、これに近い単語は複数あり、近年では造語も登場してきています。特に corruption や fallen などの英単語は昔から存在しています。ですので、日本語から英語に訳すときは一番意味が近い英単語を選ぶ必要がありますが、逆に英語から日本語に訳すときは包括的に「悪堕ち」と訳してしまって問題ないと思われます。

以下、様々な「悪堕ち」を表現する英語を説明します。

corrupt

2021年現在、最も「悪堕ち」に近い英単語です。名詞形は corruption です。2000年代後半から悪堕ちに該当する単語として使われ始めたようです。

ロングマン現代英英辞典では corruption は
dishonest, illegal, or immoral behaviour, especially from someone with power
元々は「屈する」というニュアンスがあり、日本語では「腐敗」という意味が一番あっていて、それに関連して「汚職」などと結びついたり、悪堕ち的には「堕落」という表現が合います。

このような意味を考えると、悪堕ちというよりは闇堕ちというのがあっていそうな感じですが、作品のタグ付けとしては「悪堕ち」に近くなってきています。

fall

「堕ちる」全般に使える万能な英単語です。これを特定の概念を持つ英単語と組み合わせて、
fall into evil = (道徳的な)悪側へと堕ちる
fall into darkside = ダークサイドへと堕ちる
というような表現とすることで悪堕ちの意味に近くなります。

decadence

闇堕ち的な悪堕ちに限りなく近い意味の英単語です。ロングマン現代英英辞典では
behaviour that shows that someone has low moral standards and is more concerned with pleasure than serious matters
快楽を求めて精神的に堕落するという意味での「堕落」または「快楽堕ち」と呼んでもいいかもしれません。

evilize

evil(道徳的な悪)を動詞にした造語で、悪堕ちジャンルとしては2014年ぐらいから見掛けられるようになりました。一般的には
to turn someone or something evil
という概念で解説されます。平易に言えば evil にするという感じです。

ちなみに、「相手を悪にする」という意味の他に「相手を悪とみなす」という意味も存在します。また、「PHANTOM」というバンドグループの1991年の曲に「EVILIZE」という、そのままの曲名の曲があるため、造語とはいえそれなりに長く使われている英単語であることが分かります。

devilize/de-evilize

devil(悪魔)を動詞にした造語です。特に de-evilize と表記することで devil + evilize という意味を強調し、「悪魔化して道徳的な悪側へと堕ちる」という意味になりますが、どちらかというとファンタジー的な場面で使われるのかと思われます。

例えば、海外の「ミラキュラス レディバグ&シャノワール」シリーズに「Miraculous: Tales of Ladybug and Cat Noir Vol. 7: De-Evilize」というのがあってここで de-evilize という単語が使われているのですが、更に akumatize (アクマタイズ)という単語も登場します。

この akuma という単語は日本語の「悪魔」から来ているのですが、例えばストリートファイターシリーズに登場する豪鬼の英語名が AKUMA だったりと用例は広く、「日本的なイメージの悪魔」という粋を出ない、解釈に幅がある単語になっていますので、積極的に使わないほうがいいかと思います。
ちなみに前述のミラキュラスでは、人々をヴィランへと変える生物「AKUMA(アクマ)」が登場してアクマタイズしようとします。また、本編で evilize も使用されています。

demonize

evilize があって devilize もあるのだから demonize もあるのだろうということで、あります。ケンブリッジ英英辞典では
to try to make someone or a group of people seem as if they are evil
というような「相手側が(道徳的な)悪だと見せようとする」という意味になります。

もちろん、「悪魔化させる」という意味でも用いられますが、こちらは俗語であると言えるでしょう。

villainization/villainisation

villain(悪役)を動詞形 villainize にして、更に名詞化した造語です。悪堕ちは敵(≒悪役)になるという意味合いが強いため、悪堕ちを表す英単語としては適切なものの内の1つです。

単語自体は2000年に使用されている例があるということでそこそこ古い単語なのですが、あくまで「悪役になる」という現実世界での立場の変更の側面が大きいようで、悪堕ちジャンルでの使用は稀なようです。

assimilation

ロングマン現代英英辞典では

  1. the process of understanding and using new ideas
  2. the process of becoming an accepted part of a country or group

という意味で、ネガティブな意味はあまりないのですが、日本語に訳すと「同化」「融合」といった「相手側になる」「相手側に取り込まれる」という意味合いで使うことができるため、悪堕ちと相性がいい単語です。参考までに。

taint

ロングマン現代英英辞典では

  1. if a situation or person is tainted by something, it damages them by making them seem bad
  2. to damage something by adding an unwanted substance to it
  3. the appearance of being related to something bad or morally wrong

平易に言えば「汚染されている」という状態です。これを使うなら corrupt の方が適切かと思われます。

depravity

ロングマン現代英英辞典では
completely evil or morally unacceptable
これを使うなら corruption の方が適切かと思われます。

degradation

ロングマン現代英英辞典では
the process by which something changes to a worse condition
「悪化する」という意味合いですので、悪堕ちのニュアンスにはちょっと届かずというところでしょう。