4 生体ユニットと悪堕ち

「生体ユニット」は、人型を保ったまま巨大生物や大型機械に取り込まれるようなシチュエーションを指し、悪堕ち的要素を多く含むため、悪堕ちジャンルにおいても人気があります。生体ユニットは、正確に表現すれば「生体ベースの演算ユニット」という概念です。平易に言えば「生きた部品」であり、例えば機械兵器や生体兵器、モンスターに生きた人間が部品として組み込まれ、それらを支援する働きをすることを指します。

(1) 生体ユニットの役割

生体ユニットの役目は、主に次の6つが挙げられます。

① 制御

生体ユニットの本来の目的は、この「制御」です。制御は、機械の3柱「入力」「演算」「出力」を狂いなく円滑に進めるもので、これがないとそもそも動かなかったり、意図した挙動をせずに暴走してしまったりします。機械だけでなく、生物兵器の制御には高度な技術が必要で、制御のために意志を持った人間を生体ユニットとして組み込む場合があります。また、制御を円滑に行うことによって機械の性能が上昇することもあり、後述する「性能の強化」にも繋がります。

② 性能の強化

対象者を生体ユニットとして組み込むことで、対象者が持っている能力を使えたり、相乗効果で新しい能力を生み出せたりする場合があります。制御下に置いた対象者自身を操作し、能力を使わせる場合もあります。

③ エネルギータンク

生体ユニットとしての役目は制御であったり性能の強化であったりするわけですが、対象者が無尽蔵のエネルギーや魔力を持っている場合はこれを取り込んでエネルギー源とすることがあります。

④ 人質

生体ユニットとして取り込まれ、制御下に置かれるということは、対象者を自由に扱える人質とすることも可能となります。前述の制御、強化、エネルギータンクという目的でなく、純粋に人質目的だったとしても対象者を取り込むことは有効です。主人を殺せば対象者まで死んでしまうと脅せば更に効果は高まるでしょう。

⑤ 感覚の共有

感覚を共有する場合、主に性的な要素を含みます。生体ユニットとなる対象者から「快楽」を受け取ってエネルギーに変換する存在や、対象者をいたぶるS的側面を見せつつ、同時に共有される痛みなどの感覚に興奮を覚えるM的側面を見せる存在もいます。

⑥ 生産

「生産」とはこの場合、「苗床」に代表されるような、対象者が母体となって新しい生物や機械を生み出すことであり、基本的に性的要素が含まれます。この生産活動は主人にとって重要であり、生産の邪魔をされないように実戦に投入されることはなく、基地や洞窟の奥に安置されている場合がほとんどです。

(2) 悪堕ちとの関係

生体ユニットは悪堕ちと相性が良いシチュエーションですが、これは、対象者が取り込まれて生体ユニットと化す「変化」と、取り込まれていく「過程」、生体ユニットとなってからの「苦悩」、生体ユニットとしていいように扱われる「無様」といった、悪堕ちの魅力に通じる要素を兼ね備えており、さらに、裸体となる生体ユニットには直接的に性的要素を感じるという理由によるものです。

生体ユニットは悪堕ちの種類の内、同化に該当します。ただし、「対象者の境界外にいる主人の直接支配を受ける」ことを同化としているので、「主人によって改造された後に生体ユニットとして主人とは別の存在へと取り付けられる」状況は、同化ではなく改造と解釈することが妥当な場合があります。「FRONT MISSION」(1995)のカレン・ミューアは、主人公ロイド・クライブの婚約者でしたが、序盤で事件に巻き込まれて失踪後、「カレンデバイス(BD6-Kr)」というコンピューターパーツへと改造させられ、あろうことがロイドたちの宿敵ドリスコルの機体「レイブン」に搭載され、ロイドたちと戦うことになります。カレンデバイスを生体ユニットと呼称するには外見が変化し過ぎている、というのも一つの理由ですが、「レイブンがカレンを取り込んだ」わけではなく、「カレンデバイスへと改造させられた後でドリスコルによりレイブンに組み込まれた」ため、このように主人とは別の存在に組み込まれる事例は改造と判断するのが妥当です。

(3) 生体ユニットの特徴

生体ユニットの特徴は次のようなものがあります。

  • 両腕と腰から下が埋まり上半身が露出する形で本体に拘束される
  • 皮膚が金属質へ変化
  • 自我の消滅

生体ユニット化することで裸になるのは、生体ユニットが純粋に「制御」や「能力強化」、そして「エネルギー源」として使われるためであって、これらの役割のためには衣服は不要であり、むしろそれらを取り去り一糸纏わぬ裸になったほうが本体との接続率も上がるという意図に基づいています。

「両腕と腰から下が埋まり上半身が露出する形で拘束される」構図は、生体ユニット化するのは女性が主流なこともあり、上半身を露出させることで女性であることを強調しつつ、拘束により本体と接続されていることを示すような表現に適しています。

皮膚の金属化に関しては、金属が「機械化した」という印象を与える点で有効な表現方法です。かつ、金属化というのは不可逆変化の代名詞であり、生体ユニット化したら元に戻れないという「不可逆変化が見えることが魅力の悪堕ち」の表現としても有効です。

自我の消滅は必須ではありません。自我を残しておくか、自我を消してしまうかは役割によって変わり、自我を消したほうが生体ユニットとしての性能は上がります。一方で、人質とするなら自我を残す方が良いですし、絶望のエネルギーを吸い上げる場合もそうでしょう。

以上のような特徴から、ギャップ萌えの観点では、生体ユニットは

  • 裸     衣服着用との対比
  • 拘束    自由との対比
  • 金属化   生命(有機物)との対比
  • 自我の消滅 自由意志との対比

というような対比が存在することが分かります。このギャップが多く、大きいほど、生体ユニット化は魅力的になります。

物語における生体ユニット化を効果的なものにするためには、対象者が物語を左右する重要な存在であることを示唆し、生体ユニット化した当人を救出する流れまでがセットで描写されることが大切です。基本的に生体ユニット化は不可逆変化であるため、救出は絶望的と考えられますが、絶望的であるからこそ、その状況をひっくり返す奇跡を起こそうとする物語は感動的なものになります。絶望的に見える生体ユニット化した対象者を救出させるためには、救出の筋が通っていることの証明として、助け出せるという希望や根拠が物語中に散りばめられていることが必要です。その一つが、生体ユニット化しても人間の形を保っていることです。たとえ四肢が融合し、金属化し、物言わぬ状態であっても、人の形を保っているのであれば、人間だった頃の状態に戻せるはずだと、主人公たちや読者に感じさせる手法は大変効果的でしょう。

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